2024.08.01

【W214かW213か】自動車評論家・渡辺敏史氏による新旧Eクラス乗り比べ

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2024年1月に日本デビューを果たし話題沸騰中の新型Eクラスセダンと同ステーションワゴン。一方で注目を集めているのが型落ちとなった先代モデルです。なぜならば、中古車の流通量が豊富な上に、新車販売価格が大幅にアップした新型のW214型に比べるとかなりお買い得だからです。そこで自動車評論家の渡辺敏史氏に新旧Eクラスを乗り比べていただくことに。新型の進化はもちろん、旧型ならではの魅力まで、存分に語っていただきましょう。

 

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W214型となる新しいEクラスは全方位の進化を果たしているが、特にポイントとなるのは車内のデジタル化を強力に推し進めたことにある。開発のメインテーマとして掲げられた合言葉は「A bridge between tradition & digitalization」、つまり「伝統とデジタルとの架け橋」だ。

 

搭載されるインフォテインメントシステムを統合制御するMB OSは、2024年以降に上市を予定しているものの一部機能を先行して搭載している。今後のアップデートによるOSの進化のみならず、Mercedes Me Storeを介してオンラインで様々なアプリの入手が可能となり、それによって機能が追加されていく仕組みだ。走行機能に直接関わらないものについては、サードパーティの参入も期待されている。

 

昨今、自動車業界ではソフトウェア・ディファインド・ビークル=SDVというキーワードが盛んに取り上げられている。簡単にいえば、アプリによってスマートフォンのように機能が追加されることで鮮度を保ち続けるクルマというわけだが、新しいEクラスはそういう世界を先駆けてみせてくれようとしているわけだ。

 

が、中にはそこまでの機能を使いこなす自信もないし期待してはいないし…という方もいらっしゃると思う。或いはもっとシンプルにクルマそのものの良し悪しが大事という方もいるのではないだろうか。もちろんW214型は、そういう先進的なデジタルアイテムをパッケージオプションとしているので、敢えてそれを選ばないという選択肢もある。

 

▲今回用意した前型の試乗車は、ディーゼルエンジンのE220dスポーツ令和5年式(写真)。新型はE200 AVANTGARDE

或いは、そこで浮かび上がるのが前型にあたるW213型という選択肢だ。当然中古車として在庫から選ぶことになるため、色や装備などは自由に選べるわけではない。が、もし好みの仕様が見つかれば、当然ながら新型との価格差は魅力的なものとなる。

 

そこで今回は、昨冬まで発売されていた前型のW213型と、新型のW214型を乗り比べて仕様や乗り味の違いを確認してみた。

▲新型の方がやや広くなった感のある後部座席

まずは居住性。ホイールベースは新型の方が20mm長く、それに比例して後席のニールームは10mm、レッグスペースは17mm広くなっているという。後席に座ってみると、確かに足元まわりは新型の方が広くなっているかなという気もしなくもないが、その差は大きくはない。頭上周りなどはかえって旧型の方が余裕があるかもと思うが、これは筆者が181cmと大柄なことも関係しているのだろう。いずれも座面高や前方景色のヌケ感、膝周りと背もたれの角度もよく練られていて、さすがに他社にもベンチマークとされるザ・セダンという印象だ。

 

前席はダッシュボード〜センターコンソール周りの意匠が大きく変わったこともあって、印象的には新型は囲まれ感、前型は開放感が強く伝わってくる。インフォテインメントのインターフェースは共にタッチパネル化されているほか、MBUXの高性能な対話システムによってかなりの機能がボイスコマンドで成立する。この辺りは多くの日本メーカーも及ばない、メルセデスの独壇場ともいえるところだろう。

 

▲ディスプレイに囲まれる新型に比べると、アナログスイッチの多い前型に安心感を覚える人も

それでも両車で差異として挙げられるのは物理スイッチの有無ではないだろうか。新型では大半の機能がタッチパネル内に内包されたが、前型ではエアコンの温度やオーディオのボリュームなど、小さいながらもロータリースイッチやノブで主要な機能は感触を伴って操作ができる。タッチパネルは面倒とか、ボイスコマンドは気恥ずかしいという向きには、前型のインターフェースの方が肌馴染みがいいかもしれない。

▲トランクまわりもしっかりチェック

走りの印象は前型・新型ともにこのクラスの範としてとても洗練されているが、強いていえば低中速域の乗り心地や静粛性という点については若干新型に軍配が上がるかなという印象だった。高速域では凹凸を超えてからの上屋の動きも一発で抑え込む、いかにもメルセデスらしいフラットライドを備えていることは以前の試乗でも確認している。今回の取材車でもあった前型のE220dでは、それこそ1000km近い長距離を無給油で一気に走りきれるほどの疲れの少なさが印象に残っているが、恐らく新型もその点は継承しているだろう。但しE200については、前型と新型ではエンジンの排気量が異なり、新型の方が動力性能に余裕があることは選択のポイントとなる。加えてE350eについては、前型では搭載バッテリーがトランクスペースの床面に凹凸を生んでいたが、新型ではフラットに均された。容量はE200やE220dより小さいが、使い勝手は改善されている。

 

これらを勘案してみると、確かに新型Eクラスは前型からの進化を感じる面も多々あれど、前型の美点は今も曇りがないことも、しかと感じられた。1850mmキッカリで留まる全幅も、都市部であれば機械式駐車場の利用においてプラスに働くこともありそうだ。目的に合致するのであれば敢えて前型…という選択肢はコスパ的にもありだと思う。

 

(渡辺敏史)

渡辺敏史(わたなべ・としふみ)
自動車評論家。二輪・四輪の雑誌編集者を経てフリーランスの自動車ライターとして独立。以降『カーグラフィック』『NAVI』『モーターマガジン』等、名だたる自動車誌で活躍。ユーモアにあふれながらも簡潔な文章スタイルは、カーマニアのみならず一般的なドライバーからの支持を広く集めている。

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