メルセデス・ベンツの歴史は自動車の歴史。こう言っても過言ではありません。なぜなら1886年1月29日にカール・ベンツが設計した自動車の特許を取得。これが『世界初の自動車』として広く認知されています。今年で139歳を迎えた誕生日を機に、メルセデス・ベンツの創生期の歴史を振り返ってみましょう。
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カール・ベンツが4サイクルエンジンを搭載した世界初の自動車を開発
自動車が初めて作られたのは1769年。フランス軍のニコラ・ジョセフ・キュニョーが製造した大砲を運搬するためのクルマでした。動力は蒸気機関でしたが、走行試験中に事故を起こし破損。実用化には至りませんでした。
内燃機関(ガソリンエンジン)を搭載した自動車が誕生したのは19世紀後半です。開発者はカール・ベンツ。1844年にドイツ南西部のカールスルーエ・ミュルブルクで生まれたカールは、工学技術に興味を持ち、カールスルーエ工科大学に進学。同大学を優秀な成績で卒業した後は技術者としての技量を磨き、1878年にオリジナルの2サイクルエンジンが完成。翌年に特許を取得しました。
カールはこのエンジンを生産するための会社を共同で立ち上げますが、共同創業者との折り合いが悪く会社を去ることに。そして新たにBenz & Cie.社を設立し、4サイクルエンジンの研究に着手します。このエンジンは自動車への搭載を考えたものだったといいます。
そしてカールは1985年に自動車を設計し、1986年1月29日に特許を申請。ベルリンのドイツ帝国特許局から37435という特許番号が与えられました。これが世界初のガソリンエンジンを搭載した自動車「ベンツ・パテントモトールヴァーゲン」です。
ベンツ・パテントモトールヴァーゲンは前1輪・後2輪の3輪車で、前輪をティラー(棒ハンドル)で操作する形をとっていました。搭載エンジンは排気量954cm³の水平単気筒でリアアクスルの上に配置され、15km/hでの走行が可能だったといいます。
写真を見るとフロントにサスペンションはなく、シートも木製。そのため動き出すと車体は相当揺れて、座っているときの突き上げもかなりのものだったはず。それでもエンジンという動力で動くこのクルマは画期的で、見かけた人は相当驚いたのではないでしょうか。
世界初の自動車によるロングドライブに出たベルタ・ベンツ
ベンツ・パテントモトールヴァーゲンを振り返るうえで忘れてはならないのが、カールの妻であるベルタ・ベンツです。
カールは特許取得後もベンツ・パテントモトールヴァーゲンに改良を加え、1888年にはタイプ3になっていました。ベルタは結婚前からカール・ベンツの事業に投資していて、ベンツ・パテントモトールヴァーゲンの発表後はもっと積極的にPRするべきと考えていたようです。そしてベルタは自分がロングドライブに出ることでベンツ・パテントモトールヴァーゲンの性能を証明すると決意したのです。
1888年8月、ベルタはまだカールがベッドで寝ている時間にベンツ・パテントモトールヴァーゲンをこっそり工場から持ち出します。このとき、寝ている夫が起きないようにエンジンはかけずに手で押したそうです。そして2人の息子とともに、ベンツ・パテントモトールヴァーゲンでマンハイムからベルタの母親が住むプフォルツハイムまで、総走行距離106kmのドライブに出かけました。
約100kmというと、東京から静岡県の御殿場までの距離。今なら高速道路を使って1時間ちょっとで走ることができます。しかしこの時代、高速道路はおろか舗装された道すらありません。ましてや運転するのは自動車黎明期のクルマで、長距離ドライブなど誰も考えたことがありません。ベルタの行動はドライブというよりも大冒険でした。
カールが目を覚ますと、台所には「出かけてきます」という置き手紙が。これは想像ですが、カールは手紙を見て青ざめたのではないでしょうか。
もちろんベルタの旅は順調とは言えませんでした。途中で何度か修理を余儀なくされ、点火装置にトラブルが発生した時はガーターを使って修理し、燃料パイプが詰まると帽子のピンを使って掃除をしました。木製ブレーキが壊れると靴職人にお願いして革製のブレーキパッドを取り付けてもらったといいます。ちなみに「自動車殿堂」によるとこれが最初の交換用ブレーキパッドのセットになったそうです。
ベルタはプフォルツハイムに到着すると、世界初の自動車による長距離旅行が成功したことを電報でカールに報告。ベルタがベンツ・パテントモトールヴァーゲンでガタガタ道を走る姿を見た人は驚きましたが、この旅によりベンツ・パテントモトールヴァーゲンの注目度は一気に高まり、販売促進につながったそうです。
さらにベルタは坂道を登るためのローギアを追加することやブレーキの改良など、旅を通して発見した必要な改良点と指針をカールに伝えます。合わせてロングドライブのためにはガソリンスタンドや標識が必要になることなど、来たるべき自動車社会に必要なインフラの構成要素を定義するという重要な仕事も行ったそうです。
カール・ベンツは1984年に、ベルタ・ベンツは2016年に自動車殿堂入り。世界で初めての「自動車殿堂入りを果たした夫婦」になったのです。
20世紀に入ると単に長距離を移動するだけでなく快適性や走行性能などが追求され、自動車は飛躍的な進化を遂げます。メルセデス・ベンツも現代までに多くの名車を世に送り出しました。
そして現代は先進運転支援システムやコネクテッド、電動化など、「100年に一度の大変革」により新世代の技術が次々に投入されるようになりました。そんな自動車が産声を上げたのはカール・ベンツという類まれな技術者の努力と、ベルタ・ベンツの冒険心があったからと言えますね。
(高橋満)
高橋満(たかはし・みつる)
求人誌編集部、カーセンサー編集部を経て1999年にエディター/ライターとして独立し、自動車、音楽、アウトドアなどをテーマに執筆。得意としているのは人物インタビュー。最近はゴルフに興味が出てきていて(まだデビュー前ですが)、Eクラスステーションワゴンのようなラゲッジが広くて快適に移動できるクルマに興味津々。
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