電気自動車(EV)は静かな走りや加速性以外にも、エンジン車にはないメリットがあります。それがリチウムイオンバッテリーの電気を自宅や野外で使えるV2H、V2Lと呼ばれる機能です。この言葉をなんとなく耳にしたことがある人もいると思いますが、あらためてそれがどんな機能で、私たちの暮らしをどう変えてくれるのかを紹介します。
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EVやPHEVの大容量バッテリーに蓄えた電気を家庭や外で使おう!
キャンプ用に1000Whクラスのポータブルバッテリーとソーラーパネルを手に入れることを考えているライター高橋です。
2019年7月にEQCを発表してから、メルセデス・ベンツは多くのEVを日本に導入しています。2022年9月にはラグジュアリーEVのEQSとミドルサイズセダンのEQEという2つのEVを導入しました。
どちらも航続距離が長く、SUVタイプとは違うメルセデス・ベンツらしいラグジュアリーを堪能できるEVが日本に導入されたことで選択の幅が広がりました。くわえてEQSとEQEにはEVらしい新たな機能が備わったことも話題に。それがV2HとV2Lです。

▲V2H・V2LはまずEQSとEQEから導入された(写真の仕様・装備は、日本仕様と異なる場合があります)
V2HはVehicle to Home、V2LはVehicle to Loadの略で、どちらもクルマに搭載される大容量バッテリーが蓄えた電気を取り出して外で使えるようにする外部給電機能を指します。V2Hはクルマから家庭に電気を供給するシステム、V2Lはクルマにコンセントを差し込んで家電などを使えるようにするシステムです。言うなれば、EVを巨大なモバイルバッテリーとして利用できるようにする機能。
2024年12月現在、外部給電機能に対応している車種は以下の通り。実はメルセデスEQだけでなく、メルセデス・ベンツPHEVモデルも対応しています。

※メルセデス・ベンツ「外部給電機能導入のご案内」より。 ※賄える電力量は、一般的な4人家族の平均的な電力使用量を1日あたり13.1kWh・月400kWhとした場合にEV/PHEV車両のバッテリーで賄える電力量を記載しており、バッテリー残量10%になるまでのシミュレーション試算となります。 ※S580 e 4MATICは現在生産を一時的に中断しております。
外部給電は暮らしをどう変えてくれる?
では、クルマに外部給電機能が備わると私たちの生活にどんな利便性があるかを考えてみましょう。
電力会社は夜間・深夜の電力を安くしたプランを用意しています。V2Hに対応したクルマがあると、深夜の電気代が安い時間帯にクルマを充電して、日中にクルマを使わない日はクルマに蓄えた電力を家庭に供給することで電気代を大幅に抑えることができるのです。
電気はPHEVで約2日分、EVで1週間分に近い量を蓄えておくことができるため、日中に電力が足らなくなって困るということはほぼないと言っても過言ではありません。電気代の高騰が社会問題になっている昨今、電気代を節約することができるのは嬉しい話ですし、エコの観点から見ても有効な手段になります。

▲自宅にソーラーパネルを設置している人なら、発電した電気をEVに蓄えて夜間に使うことができる(写真:AC)
本ブログを読んでいただいている方で戸建てにお住まいの方の中には自宅にソーラーパネルを設置していたり、これから導入を考えていたりする人もいるはず。日中にソーラーパネルが電気を発電しても、仕事などで家にいないのでほとんど使わないもの。
ソーラーパネルで発電したのに使わなかった余剰電力は電力会社に売電することができます。FIT(Feed-in Tariff=再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度)を利用した場合、一般的な家庭だと1kWhあたり15円(2025年度)で買い取ってもらえますが、固定価格なのは10年間で、それを過ぎると買い取り価格は一気に下がります。
FITがスタートしたのは2009年だっため、2019年以降は固定価格での買い取りが終了した人が増加し、卒FITと呼ばれています。
卒FITを迎えた人が、発電した電気をどう活用するかを考える際に注目したのが、昼間に発電した電気を蓄電池に蓄えて夜に使うという方法です。ただ、蓄電池は家庭用でも数百万円します。V2H機能のあるEVなら、移動手段と蓄電池の機能をひとつで賄うことができるのです。

▲メルセデス・ベンツでは3種類の外部給電機器を推奨している(メルセデス・ベンツ「外部給電機能導入のご案内」より)
電気代がかさむ冬場でも1万円以下で済むことも
V2H導入には、メルセデス・ベンツの車両に適合する外部給電機器が必要です。価格は120万〜160万円(税抜)しますが、設備費で上限30万円、工事費で上限15万円のCEV補助金が交付されます(令和6年度)。
実際にV2Hを導入している友人に話を聞くと、アプリでソーラーパネルの発電状況や現在使っている電気がどこから来たものかなどを確認しながら電気を使うのが楽しいそう。オール電化の一軒家で最も電気を使う冬でも電気代は1万円を下回り、電気の使用料が少ない春や秋だと数千円で収まっているとのことでした。
もう一つの外部給電であるV2L。外出先で自宅にいるのと同じように電気を使えるのは案外便利なものです。スマホやノートPCなどの充電はもちろん、家族で遊びに行った際に子どもの髪の毛をドライヤーで乾かしたり、コーヒーメーカーを使ったりすることもできます。
私は過去に仲間とDJ機器の電源としてV2L対応のクルマを使って音楽を楽しみながらキャンプをしたことがあります。プロジェクターを使ってキャンプをしながら映画を楽しむことだってできますよ(いずれも事前にキャンプ場の許可を取り、ほかの利用者に迷惑がかからない形で楽しんでください)。
クルマの電気が使えれば万が一の災害時も安心

▲コンパクトSUVのEQAもV2H/V2Lに対応したことで、導入のハードルが下がった(写真の仕様・装備は、日本仕様と異なる場合があります)
V2H、V2Lがもっとも役立つ場面として挙げられるのが、災害時です。内閣府が公表している「首都直下地震による被害の概要」によると、首都直下地震でライフラインが寸断された場合、電力の復旧目標日数は6日とされています。メルセデス・ベンツのV2H対応車種のうちEQなら、バッテリーが満充電になっていれば、クルマからの電力を使いながら復旧まで凌ぐことができそうです。
災害による停電は、地震以外でも発生します。2019年には千葉県で台風による大停電が発生しました。北海道や東北、北陸では大雪による停電が発生することもあります。
以前私がV2H関連の取材をした際、こんな事例を聞きました。
ある地方で真冬に大規模停電が発生した際、家庭内の照明や冷蔵庫を動かしただけでなく、停電で不安を感じている子どもにDVDを観せて不安を紛らわすことができたそう。そしてボイラーを動かして高齢の両親が入浴することもできて、停電期間を乗り切ることができたと言います。
V2Hの外部給電機器がなくても、V2L機能があればクルマから電気を取り出して家電を使うことができます。
日々の暮らしが豊かになるだけでなく、万が一の際の安心にもつながるV2HとV2L。みなさんもぜひ導入を検討してみてください。
(高橋満)
高橋満(たかはし・みつる)
求人誌編集部、カーセンサー編集部を経て1999年にエディター/ライターとして独立し、自動車、音楽、アウトドアなどをテーマに執筆。得意としているのは人物インタビュー。最近はゴルフに興味が出てきていて(まだデビュー前ですが)、Eクラスステーションワゴンのようなラゲッジが広くて快適に移動できるクルマに興味津々。
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